ある作家の日常 meiko view
2004年3月1日 連載 先生…覚えていますか?
手紙の書き出しは、そう綴られていた。
私のもとにも少ないながら手紙はくるのだが、こういった書き出しのものは
大抵勘違いも甚だしい自己陶酔型のものが多い…
しかし、読み進めていくうちに面白いと思った。
その差出人の名前は…
『穂上 芽衣子』
私の名前は芽衣子…ずっと病院に住んでいる。
私の少なくて希薄な記憶のほとんどは病院の中の事だ
正確な病名は知らないけど、とても珍しい病気らしい
多分、治せない類の病なんだと思う。
そうでもなければこの第3特別病棟にはいないだろうし…
私の病室はその病棟にある、私はここにいる患者で無事に退院していった人を
見たことがない…
だから、ここは多分そういう場所なんだと思う
その日も私は中庭を散歩していた。
散歩は私には唯一の楽しみだった
春も夏も秋も冬も…私にはとても綺麗に見えた。
いつもの代わり映えしない病室の壁と天井に比べると、鮮やかな外の世界はいつでも
ファンタジーだった。
静かに影を落とす葉桜を見て、過ぎた春を、近付く夏を実感する。
私がいつものベンチの前に来た時、そこに誰か座っていた
先客がいるようだった。
私同様、四季の移り目を見ているようだった。
しかし、着ている服は男物ではあるが第3特別病棟の服だった。
こんな人を見た記憶は無い
だから多分、昨日か今日に入った人なんだろう…
私が離れたところから見ているのに気づいたその人は
「おや?失礼、君の席だったかな?」
と言った。
まるで、とぼけたような口ぶりで。
そして、少し横に動いて私の座るスペースを空けてくれた
私も少し疲れていたので、躊躇わずに座る
ここの席が一番日当たりがいい。
そして前の桜の木が暑くならないように影を提供してくれているので、気持ち良い。
「ここは、日当たりもよくていい場所ですね」
隣の人が不意に言う
「私はここ何日も外に出てませんからねぇ、気付けば春も過ぎていた」
そう言って、手に持っていたノートを開いた
「ここの桜は春になると綺麗なんでしょうね」
ノートに目を落とし、何か書いている。
「春風に そよぎ散りゆく 花桜 青い空をも 緋色に染めて」
彼は不意に口にした、短歌みたいだ
俳句とか短歌の良し悪しを判断する事は出来ないけれど
何となく、良く出来てるような気がする。
「さてと、そろそろ回診の時間ですので、失礼しますね」
不意に腰をあげて、振り向きもしないで言うと
帰っていってしまう。
何故だろう、とても不思議な感じがした。
あんな人は病院には少ないタイプの人だと思う。
でも、あの人も病気なんだ…
多分とても重い病、そうでなければこの第3特別病棟にはいない
ここは死を待つ建物なのだ。
それほど重症には見えない、だけどきっとそうなんだ。
手紙の書き出しは、そう綴られていた。
私のもとにも少ないながら手紙はくるのだが、こういった書き出しのものは
大抵勘違いも甚だしい自己陶酔型のものが多い…
しかし、読み進めていくうちに面白いと思った。
その差出人の名前は…
『穂上 芽衣子』
私の名前は芽衣子…ずっと病院に住んでいる。
私の少なくて希薄な記憶のほとんどは病院の中の事だ
正確な病名は知らないけど、とても珍しい病気らしい
多分、治せない類の病なんだと思う。
そうでもなければこの第3特別病棟にはいないだろうし…
私の病室はその病棟にある、私はここにいる患者で無事に退院していった人を
見たことがない…
だから、ここは多分そういう場所なんだと思う
その日も私は中庭を散歩していた。
散歩は私には唯一の楽しみだった
春も夏も秋も冬も…私にはとても綺麗に見えた。
いつもの代わり映えしない病室の壁と天井に比べると、鮮やかな外の世界はいつでも
ファンタジーだった。
静かに影を落とす葉桜を見て、過ぎた春を、近付く夏を実感する。
私がいつものベンチの前に来た時、そこに誰か座っていた
先客がいるようだった。
私同様、四季の移り目を見ているようだった。
しかし、着ている服は男物ではあるが第3特別病棟の服だった。
こんな人を見た記憶は無い
だから多分、昨日か今日に入った人なんだろう…
私が離れたところから見ているのに気づいたその人は
「おや?失礼、君の席だったかな?」
と言った。
まるで、とぼけたような口ぶりで。
そして、少し横に動いて私の座るスペースを空けてくれた
私も少し疲れていたので、躊躇わずに座る
ここの席が一番日当たりがいい。
そして前の桜の木が暑くならないように影を提供してくれているので、気持ち良い。
「ここは、日当たりもよくていい場所ですね」
隣の人が不意に言う
「私はここ何日も外に出てませんからねぇ、気付けば春も過ぎていた」
そう言って、手に持っていたノートを開いた
「ここの桜は春になると綺麗なんでしょうね」
ノートに目を落とし、何か書いている。
「春風に そよぎ散りゆく 花桜 青い空をも 緋色に染めて」
彼は不意に口にした、短歌みたいだ
俳句とか短歌の良し悪しを判断する事は出来ないけれど
何となく、良く出来てるような気がする。
「さてと、そろそろ回診の時間ですので、失礼しますね」
不意に腰をあげて、振り向きもしないで言うと
帰っていってしまう。
何故だろう、とても不思議な感じがした。
あんな人は病院には少ないタイプの人だと思う。
でも、あの人も病気なんだ…
多分とても重い病、そうでなければこの第3特別病棟にはいない
ここは死を待つ建物なのだ。
それほど重症には見えない、だけどきっとそうなんだ。
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